陽子線のブラッブピークを腫瘍の厚さに合わせて拡大することが陽子線治療の必要条件である.この場合、基本的には、拡大ブラッブピーク内の物理的線量が一様(平坦)であることを目的とするが、ピーク拡大装置に入射する陽子線のエネルギーにより、この線量分布は変化する.すなわち、厳密には体内の腫瘍深度が異なる患者毎に異なるピーク拡大装置が必要となる.また、拡大ピーク内の生物学的効果が異なることを照射条件に加味する場合には、この条件に合った物理的線量分布となるよう調整しなければならない.2年計画の本研究の1年目として、この問題を解決するために、2種の部品の遠隔操作による拡大ピーク内の物理的線量分布を調整し得る装置を本研究費で試作開発した.本装置は2種4個の陽子線エネルギー吸収体が相対位置を変えることにより、この吸収体を通過した陽子線のエネルギー分布を変化させるものである.筑波大学陽子線医学利用研究センターの陽子線を用いた実験結果によれば、本装置により拡大ピーク内の物理的線量分布の調整は充分容易であり、良好な線量の一様性も得られることが判明した.この研究の途中結果について、日本医学放射線物理学会(1993年9月)で報告した。 ひき続く課題はブラッブピークの拡大幅を遠隔操作により変える装置の開発であり、今年度試作した装置を基本として遂行する予定である。2種のエネルギー吸収体の厚さを変更することによりなされるものである。このための吸収体としての物質は流動性のあるものとなる。成果は学会報告ならびに雑誌に論文投稿により公表の予定である。
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