ブラッグピーク幅を拡大する装置には2種類ある。その1つは、陽子線が時間的に異なる厚さの吸収体を透過するレンジモジュレータである。この装置は加速器からのビームがパルスである場合には使用が困難である。他は、陽子線の散乱を利用するリッジフィルター(階段状もしくはスロープ状のエネルギー吸収体)である。これは、吸収体の透過により、エネルギー的に幅をもった陽子線束が被照射体に入射することを利用する。この装置はパルスビームにも連続ビームにも使用可能である。この装置の問題は、標的の厚さが同じで体内深度が異なる場合、この装置に入射する陽子線のエネルギーは異なるため、透過過程での散乱角が相対的に変化し、拡大ピーク内の線量分布が変化し、標的内に一様な線量を付与することができなくなることである。 本研究の基本的課題は、上記の問題を解決するための拡大ピーク内線量分布を調整しえるリッジフィルターを開発するである。またこの上に、1つの装置でピーク拡大幅を変えられる装置の開発(現状では標的の厚さ毎に異なる装置を使用)を本研究の究極的課題として試みることである。本研究により、円錐台形状のポリエチレン様Mix-DP材料を四分割したもの(扇形小片フィルター)を用い、2個づつの対として対称的に配置し、これらの相対位置を遠隔操作で変えることにより、拡大ピーク内の線量分布の調整が可能であることを明らかにした。この成果を研究論文として、日本医学放射線物理学会誌に投稿した。また、究極的な装置開発との関連で、扇形小片フィルターの上下両面の面積と高さとの関係が拡大ピーク内の線量分布の形成にどのような影響をもつかに実験的検討を加えた。この結果に基づき、扇形小片フィルターの上下面を伸縮性のある膜で連結した容器を試作するなど今後の課題として研究中である。
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