虚血性脳血管障害において機能の低下している神経細胞に生存能viabilityが残っているか否かを知ることは、治療法の選択と予後の推定においてきわめて重要である。核医学的検査において、機能低下はグルコース代謝の低下として表わされる。しかし機能の改善する可能性のない領域においてもグルコース代謝は低下として表わされる。すなわちグルコース代謝だけからでは、神経細胞のviabilityの障害と機能の低下を鑑別することはできない。 ところで、中枢神経性ベンゾジアゼピン受容体benzodiazepine receptor(BZR)は大脳や小脳の神経細胞に広く分布している。いまもし神経細胞の機能が低下しているにもかかわらず細胞自体は正常で生存能を有していれば、その表面にあるBZRの数(濃度)は正常であると考えられる。そこで機能の低下した神経細胞にviabilityが残存しているかどうか、中大脳動脈閉塞砂ネズミを用いて梗塞巣と遠隔領域のグルコース代謝とBZR結合を検討した。グルコース代謝には、[^<14>C]2-deoxyglucose(2-DG)を、BZR結合には[^<123>I]-iomazenilを用いて2核種同時オートラジオグラフィを作成し、グルコース代謝と受容体結合ならびに病理組織学的対比を行った。 その結果、神経細胞が脱落している梗塞巣には[^<14>C]2-DGの取り込みが見られたが、[^<123>I]-iomazenilの集積は全く見られなかった。しかし梗塞巣の周囲および同側の線条体、視床および外側膝状体などの遠隔領域では[^<14>C]2-DGの取り込みが低下し、[^<123>I]-iomazenilの集積は正常であった。これらの領域では変性のため数は減少しているものの正常の神経細胞が残存していた。[^<123>I]-iomazenilは、[^<14>C]2-DGよりも神経細胞のviabilityを正確に反映すると考えられた。[^<123>I]-iomazenilは、実験動物脳のみならずヒト虚血脳における神経細胞の生存能の評価をするためのSPECT(single photon emission computed tomography)用薬剤として極めて有用な役割を果たすであろうというのが、この研究の結論である。
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