研究概要 |
家兎を静脈麻酔した後に、その耳介動脈及び大腿動脈にファルモルビシン1mg/ml,マイトマイシン1mg/ml,5-Fu 50mg/mlを直接動脈内注入し、1W後に屠殺して各々の動脈のホリマリン固定標本を作製し、抗癌剤が及ぼす組織学的な変化について調べたところ、光学顕微鏡下の観察においては明らかな内皮細胞の変性・障害や血管壁の変化は指摘できなかったが、注入した血管には血栓形成が疑われる標本が多かった。これは内皮細胞障害に起因していることを当初考えていたのだが、コントロールとして行った対側の生食注入例でも程度は低いと思われるものの若干の変化が認められたことより、動脈内への直接注入による物理的な影響によって修飾されている可能性もあると思われた。また、この所見自体が、標本固定の際のアーチファクトである可能性も否定できない。 従って、現状の実験系では抗癌剤自体の作用と抗癌剤注入による機械的な作用とを明確に区別して評価することが困難であることが判明した。これは臨床の現場においても、動脈内注入を行った血管の障害が抗癌剤自体によると推測される場合も、カテーテルやガイドワイヤーの操作によって引き起こされたと考えられる場合もあるのと同様である。従って、これらの2つの因子を明確に区別して評価するためには、動脈自体を傷をつけずに完全に家兎から遊離させて、抗癌剤に接触させて起こる変化を形態学的のみならず薬理学的にもコントロールとの対比の上で評価することが必須と考えられた。
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