昨年までの薬理学的検討の結果、エピルビシンはラット大動脈内皮細胞のNO関連機能を障害していることが明らかとなった。この現象が実際の臨床の場における抗癌剤動注後の血管閉塞と深く関連していると考えるためにはin vivoの系で証明する必要がある。そこでウイスターラットにエピルビシン2mg/kgを7日間腹腔内投与し、胸部大動脈を摘出した。まず内皮機能をみるためにAchに対する血管標本の反応をみたがコントロール(生食投与群)との有意差はなかった。次に平滑筋機能をみるためにSNPに対する反応をみたが、これもコントロールとの有意差はなかった。同時に測定したエピルビシンの血中濃度は、かなり個体間に差は認められるものの、10μmol/1以上の濃度を示す個体もかなり認めた。昨年までのin vitroの系で内皮機能に変化を認めたエピルビシン濃度が10μmol/1だから、vitroとvivoの差を単にエピルビシン濃度の差として考えることはできない。この差の生じた原因としては体内分布の問題や、何らかの生体内防御機構の関与などが推測される。いずれにせよ、実際臨床の場で用いる動注時エピルビシン濃度は1000μmol/1を超えることが多いので、今回の結果からエピルビシンは生体内では内皮機能に影響しないと結論づけることはできない。今後は防止法と関連づけるためにも生化学的なNO合成酵素活性の測定などより詳細なメカニズムを解明する方向に研究を進めていきたいと考えている。
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