研究概要 |
目的: ラットを用いて、幼若期の嗅内皮質損傷が成熟期の辺縁系ドーパミン(DA)代謝にどのような変化をもたらすかを検討した。 対象と方法: Wistar系雄性ラット生後1週目の左嗅内皮質の神経細胞を、キノリン酸で傷害させた後、飼育し、生後5週と8週に脳を取りだし、左右の外側扁桃体、側坐核、線条体、および内側前頭前野のDAとその代謝産物(DOPACとHVA)の組織濃度を、電気化学検出器付き高速液体クロマトグラフで測定した。 結果: 傷害群の生後5週では、偽手術群に比べて、両側の外側扁桃体のDAが有意に増加した(左130%,右113%)。傷害群の生後8週では、左の外側扁桃体でDAの増加が持続し(118%)、両側の側坐核のDAは増加し(左,114%;右,116%)、HVAも増加した(左,130%;右,130%)。また、両側の線条体のDAが増加し(左,147%;右,130%)、HVAも増加した(左,187%;右,181%)。 考察: 幼若期ラットの嗅内皮質の神経細胞に損傷を加えると、成熟期に辺縁系や基底核のDA代謝に変化が生じることが、本研究ではじめて示された。とくに、扁桃体で認められたDA濃度の増加は、分裂病死後脳での報告(Reynolds,1983)と一致する。以上の所見は、精神分裂病患者の内側側頭葉構造の形態学的変化が、思春期にDA代謝の変化をもたらすという仮説の実験的根拠を提供すると思われる。
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