てんかんの神経機構を明らかにする目的で、側頭葉てんかんの実験モデルである海馬キンドリングモデルを用いて、脳内セロトニン(5-HT)系に関する神経薬理学的研究を行った。 平成5年度は5-HT1A作動薬(8-OH-DPAT)の局所微量注入を行い、海馬キンドリング発作の発現に対して5-HT1A受容体が抑制的に関与することを明らかにした。さらに選択的5-HT再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬(フルオキセチン、パロキセチン)の全身投与実験を行い、けいれん発作持続時間の有意な短縮が認められた。またフルオキセチンの脳内微量注入により発作誘発閾値が用量依存的に上昇し、本剤のもつ抗けいれん効果を示した。 平成6年度は、フルオキセチンの慢性投与時の効果を検討した。その結果、フルオキセチンの21日間反復投与後に海馬発作の後発射閾値が有意に上昇し、本剤の抑制効果が反復投与後に強化されることが明らかとなった。同様に、5-HT1A作動薬gepironeの21日間反復投与後に行ったフルオキセチン単回投与により、後発射閾値の有意な上昇を認めた。 以上の研究から、海馬発作活動に5-HT1A受容体を含む脳内5-HT系が抑制的に関与していることが示された。またフルオキセチンの慢性投与に伴う抑制効果の神経機序として、5-HT自己受容体の脱感作を介した5-HT伝達増強作用の重要性が推測された。さらに選択的5-HT再取り込み阻害薬がてんかん患者の抑うつ症状に有用であり、てんかんの新しい治療薬となりうる可能性が示唆された。
|