老年期、すなわち通常65歳以上の痴呆性疾患患者に関しては、全国および地域単位での疫学調査がこれまでいく度かなされており、その実態および年度をおいた変動が徐々に明らかにされている。しかし、いわゆる初老期に発症した痴呆性疾患患者については、これまで組織的な検討がなされておらず、この結果、医療機関および福祉の対応にも遅れが目立ち、家庭看護が困難となった場合でも、老年期痴呆患者における痴呆専門病棟や特別養護老人ホームのような定まった経路がないのが実情である。今回われわれは、初老期発症の痴呆性疾患患者の実態を知ることを目的として、主に神奈川県下の20病院-内訳は総合病院精神科9(入院設備あり4、なし5)、単科精神病院8(老人病棟あり5、なし3)、特殊病院施設3(中毒専門病院、リハビリ病院など)-の精神科医師あてに、一定の期日中にそれらの病院に入院ないし通院した、30歳以上、65歳未満発症の全痴呆性疾患患者に関するアンケートを出した。内容は、発症年齢・経過期間・診断名・痴呆の重症度・遺伝負因の有無などで、ここでは、対象をいわゆる初老期痴呆に限定せず、痴呆の原因を問わずにアンケートを集めた所が特徴である。また解答の不十分な点は施設を直接訪問することにより補った。このアンケート調査のデータを疫学的に分析し、その客観性の程度と意義について考察を行った結果を、平成5年度の成果として第9回老年精神医学会に報告する予定である。
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