前年度に引き続いて、初老期発症の痴呆性疾患患者の臨床実態を知ることを目的とし、横浜市内のすべての精神病院(15)と精神科・神経内科・脳外科を有する病院(96)および診療所(88)にたいして、狭義の初老期変性性痴呆疾患に限らず、原因に関わりなしに、30歳以上-65歳未満の初老期に発症した全ての痴呆を有する患者についてのアンケート調査を以下の要領で行った。1995年10月のいずれかの期日に入院ないし通院した患者を対象とし、内容は、性別・出身地・現住所・痴呆の発症年齢・経過年数・痴呆の診断名・合併症の有無と診断名・重症度(ADLにより軽度・中等度・重度に分ける)・痴呆の遺伝不因の有無、など必要最低限のものに限った。これらの調査の結果は、回収率が32%(199施設中64施設)と低く統計学的分析は困難であったが、患者の総数87名中、アルツハイマー病(AD)が42名と最も多く、脳血管性痴呆(VD)が28名とこれに続き、前者は女性、後者は男性に多かった。老人病棟を持つ精神病院や老人専門外来のある総合病院精神科で前者の割合が高いのが特徴的であった。この他の疾患としては、精神科ではピック病、進行性核上性麻痺、アルコール性痴呆、脳外科では頭部外傷後遺症、脳腫瘍後遺症がみられた。遺伝負因はADの12%に認められた。 入・通院の別では精神病院で入院が、総合病院で通院の割合が高かった。重症度は全体には中等症が多かったが、ADではVDに比べ重症者が多く、現在通院中でもやがて入院が必要となる例が多いものと考えられた。アルコール性痴呆では重症度が低いのに入院の割合が高く、性格変化や家庭内問題が原因となっているものと考えられた。初老期発症の痴呆性疾患は、疾患が多岐に渡り、また経過が長く現在の居所が掴みにくいことから、今後の疫学調査には老年期痴呆性疾患とは違った工夫が必要である。
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