研究概要 |
バセドウ病の病因として甲状腺刺激ホルモン(TSH)レセプターに対する自己抗体が重要とされている。我々は,ヒト末梢血中にTSHレセプター様物質が存在し,それが抗原となってTSHレセプター抗体が出現しバセドウ病を発症するのではないかとの仮説のもとに末梢血中にTSHレセプター様物質が存在するか否かについて検討を試みた。TSHレセプターのN端側に近い部分のペプチドに対する抗体を作成しこれを用いて解析した結果,ヒト末梢血中にTSHレセプターの細胞外部分に相当すると考えられる分子量約6万の物質が存在し,またこの物質が未治療バセドウ病患者で高値を示すことを発見した。この物質の由来として一つは,膜貫通部位を欠くtruncated formのTSHレセプターが存在しこれが分泌される可能性,もう一つはTSHレセプターの細胞外部分がproteolysisを受けこれが末梢血中に出現するという可能性等が考えられる。本研究においては、血中のTSHレセプター様物質の性質を明かにするとともに分泌型TSHレセプターの存在の存在について検討することを目的とする。 Full lengthのTSHレセプターのproteolysisの可能性については,TSHレセプターを発現ベクターpCXN2に組み込込みCHO-K1細胞に発現させることに成功し,この細胞がTSHおよびバセドウ病患者IgGに極めて良好な反応を示すことを確認した。これがproteolysisを受け、medium中に放出されるか否かについてTSHレセプターのペプチドに対する抗体によるRIAおよびWestern blottingにより検討を行っている。一方,truncated formのTSHレセプターについてはGravesら(BBRC 187:1135-1143,1992)の報告した膜貫通部位を欠いた1.3kbのTSHレセプターのvariantをPCR法によりヒト甲状腺cDNAよりクローニングし,発現ベクターpCXN2に組み込みCHO-K1細胞に形質導入し発現させることに成功した。これがmedium中に分泌されるか否かを上記の方法により検討を行っている。また,Northern blot解析によれば1.3kbの他に1.7kbのvariantも存在する可能性があるため,これをクローニングする目的でバセドウ病患者甲状腺組織からcDNAライブラリーを作成することを試みこれに成功した。現在TSHレセプターcDNAプローブを用いてスクリーニングを行い,その解析を行っている。
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