本年度は主に膵B細胞及び肝に発現しているグルコースを燐酸化する酵素グルコキナーゼのNIDDMにおける遺伝子異常の有無につき検討した。NIDDM25例中1例にPCR-SSCP法で異常バンドが発見され、更に検討の結果、エクソン5にAla(GCT)→Thr(ACT)の点突然変異を認めた。発端者は68才女性で62才のとき糖尿病を指摘され、以後食事療法で加療、現在は境界型である。家系調査の結果、同じ変異を持つ症例が家系内に5例存在しそのいずれも糖尿病型あるいは境界型であった。75gOGTTの結果これらの症例のグルコースに対するインスリン分泌反応は低下しており、△IRI/△BSは正常コントロールに比し有意に低下していた。G.I.Bellとの共同研究で我々の発見したAla-188→Thr-188をE Coliに発現し検討したところ、wilclの酵素に比しVmaxは半減しKmは9倍に上昇した。この結果はiv GTT、グルカゴン負荷テスト等の比較的強い刺激ではインスリン分泌は保たれているがOGTTのような軽度の刺激では低下がみられた事と一致した。近年フランスのMODYの家系で多数のグルコキナーゼ遺伝子変異が同定された。我々の家系も1例が13才発症の症例でMODYの家系と思われたが、他の4例は成人発症であった。本症例のおうにグルコキナーゼ遺伝子異常の家系内に成人発症の糖尿病を認める例は他にもあり、NIDDMの一部にこのようなグルコキナーゼ遺伝子異常が存在する可能性が示唆された。
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