研究概要 |
甲状腺濾胞上皮細胞の分化・増殖にはサイロトロピン(TSH)及びそのレセプター(TSH-R)が中心的役割を果すと考えられるが、甲状腺癌細胞におけるこれら役割に関しては不明の点も多く,甲状腺癌の診断・治療にとって重要な問題である。 そこで,ヒト甲状腺癌組織のTSH-Rの構造変化の有無をその塩基配列より推定を試みた。 手術時に得た甲状腺腫瘍および隣接正常組織よりmRNAを調製し,逆転写酵素を用いcDNAを作成した。TSH-R cDNAは9個の領域に分割し,各領域につき,腫瘍cDNAを鋳型としてPCRを行ない,その後いわゆるsingle strand conformation polymorphism(SSCP)法にて変異の有無を推定した。 その結果調べた34組織中6例に正常と異なる変異が発見された。このうち2例は細胞外ドメインをコードする領域のものであり,4例は細胞内ドメインに対応する領域であった。注目すべきは,この細胞外ドメインの変異は乳頭癌組織でのみ見い出されることであり,その機能を解明すべきと考える。 いづれにせよ,甲状腺癌では予想以上の頻度でTSH-Rの変異が存在することが明らかとなった。各々の変異の本態,そのレセプター機能に及ぼす影響ならびに腫瘍の分化度・増殖速度等との関連を追求する必要があると考える。
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