我々は甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)の細胞内第二ループのヘリクス構造に注目し、この疎水性アミノ酸を変異せしめ、変異受容体の情報伝達について検討した。その結果変異を起こした多くの受容体で、アデニル酸シクラーゼの活性化能の低下がみられることにより、ヘリクス構造が重要な役割を有することを証明した。なお、TSH結合能においては何ら差異を認めなかった。そこでバセドウ病患者血清を用いて変異受容体を刺激したが、その変異TSHRへの刺激能は正常TSHRに対する刺激能に比例することより、バセドウ病患者血清は細胞内の変異により引き起こされるTSHR情報伝達能の変化を認識しないものと考えられた。 次に我々は、ラット脂肪細胞にTSHRのcDNAを発見し、これをクローニングした。アミノ酸構造はラット甲状腺におけるものと全く同じであった。そこで遊離脂肪細胞を用いて実験を行なったところ、これが高濃度のTSH刺激によりlipolysisを促進することを認めた。また、可溶化した脂肪細胞のTSH受容体はTSHに高親和性を有しており、バセドウ病患者IgGもこれを認識し、結合した。このことにより、バセドウ病患者血中に増加する遊離脂肪酸生成の成因として、バセドウ病患者血清が、そのTSHR刺激能を介してlipolysisを促進する可能性を考慮し、現在、高力価のIgGを用いて研究中である。
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