糖尿病性腎症では腎糸球体にIV型コラーゲンを主体とするマトリックス蛋白の蓄積が生じ、糸球体濾過機能を低下させて腎不全を引き起こすと考えられている。本研究では、このIV型コラーゲン蓄積のメカニズムを解明することを目的に、糖尿病状態(高糖濃度条件)で糸球体メサンギウム細胞のIV型コラーゲン産生能・分解能の変化を検討した。 先ず、IV型コラーゲン産生系であるが、エンドセリン(ET-1)、アンジオテンシンII(AII)、フォルボールエステル(TPA)等プロテンキナーゼC(PKC)を活性化し得る血管作働性物質等がIV型コラーゲン産生量を増加させること、高糖濃度条件ではPKCが持続的に活性化されていることを見い出した。さらに、PKCの下流に存在するMAPキナーゼの活性も増加を示していた。即ち、糖尿病状態では、PKCの活性化、MAPキナーゼの活性上昇がIV型コラーゲン産生の増加に関与していることが強く示唆された。但し、糖尿病状態でのIV型コラーゲンα1・2鎖mRNAの変化は有意ではなく、トランスレーションの過程を含め、より詳細な検討が必要と思われた。 次いで、IV型コラーゲン分解系について、メタロプロテイナーゼ(MMP-2およびMMP-9)を中心に検討した。先ず、northernblot法により、MMP-2およびMMP-9のmRNAがメサンギウム細胞に発現していることを確認した。 さらに、高糖濃度条件下でのmRNA量の変化を検討したが、27.8mM、5日間の実験条件では明かな差異を見い出すことはできなかった。 以上の結果より、糖尿病状態で生じる糸球体内コラーゲン蓄積に高血糖に基づくPKC-MAPキナーゼ系の活性亢進が大きく関与していることが示唆された。但し、種々の血管作働性物質等も糸球体細胞におけるコラーゲン産生を刺激し得ることから、in vivoの糖尿病状態においてはこれら血管作働性物質の影響をも考慮する必要があるものと思われた。
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