研究概要 |
老化・糖尿病における動脈硬化症発症・進展を検討するうえで、血管壁における活性酸素の産生と分解の異常は、LDLの酸化と血管内皮細胞の活性化遺伝子発現を介してマクロファージや血管平滑筋細胞機能を修飾し、動脈硬化症発症を誘導すると指摘されている。既に糖尿病状態では、非酵素的糖化反応が亢進するため活性酸素の産生が亢進していることが考えられる。そこで本研究では、高血糖状態での活性酸素分解能の異常を検討し、過剰となった活性酸素により、血管内皮細胞の活性化に関する遺伝子発現が誘導され、血管機能が障害されるという仮説を明らかにした。 1.高血糖状態でのラジカルスカベンジャー機能異常と血管内皮細胞障害 高グルコース条件にて培養した臍帯静脈血管内皮細胞では、グルタチオン依存性過酸化水素の分解が低下した。この異常は培養液中のグルコース濃度依存性であってD-グルコースに特異的な現象であった(Kashiwagi A et al.Diabetologia,in press,1994)。この異常は過酸化水素によるペントースリン酸経路活性化が、高グルコース培養条件下に低下することによることが明らかとなった(Kashiwagi A.et al Diabetes 41:18A,1992)。これらラジカルスカベンジャー異常は培養液pHの低下でも認められた(Ikebuchi M.et al.Metabolism 42:1121,1993)。これら高グルコース条件下における活性酸素分解異常により、血管内皮細胞は、活性酸素による細胞障害を強く受けた(柏木厚典他 動脈硬化21:373,1993)。 2.高グルコース条件下における血管内皮細胞活性化遺伝子発現 高グルコース培養条件下に血管内皮細胞の表面のICAM-1の発現を、その特異抗体を用いたElisa法にて検討した。高グルコース条件下にICAM-1の発現が増加した。 これら増加は各種ラジカルスカベンジャー(鉄キレーター、VitEなど)にて抑制された。更に高浸透圧培養下にも、これら遺伝子発現の異常が観察されることより、血管内皮細胞に浸透圧受容機構の存在する可能性が示唆された。現在MCP-1、PDGF-beta鎖の遺伝子誘導を検討中である。
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