研究概要 |
ミトコンドリアNADH脱水素酵素の特異的阻害剤ロテノンを用い,10^<-8>M濃度でND2,CO1遺伝子発現を検討したところ分化に伴う遺伝子発現は時間的に変化せず,ミトコンドリア特異的阻害はPMA,DMSO添加の場合の遺伝子発現と全く異なることが明らかとなった.5×10^<-6>Mの濃度のロテノンでは電顕的に典型的なアポトーシスの所見を示し,DAP1を用いた蛍光染色でも大多数の細胞がアポトーシスを起こすことが証明され,ミトコンドリア機能とアポトーシスが密接に関与することが新しく発見された.さらにBCL2遺伝子発現はロテノン投与後数時間内は一過性に増加し,その後急激に減少し,この現象がアポトーシスと関与していたことが示唆された.さらに興味深いことはミトコンドリアのチトクロームC酸化酵素の阻害剤KCNはアポトーシスを誘発せず,ネクローシスを起こさせることが明らかとなった.この所見はミトコンドリアの電子伝達系の異なった部での阻害がアポトーシスとネクローシスを分岐させる可能性を示すものとして新しい知見である. ミトコンドリアの特異的阻害時の遺伝子発現の動きが明らかになり,また細胞死の様態が詳細に観察されたため,ほぼ平成5年度の研究は達成されたと思われる.またミトコンドリアのNADH脱水素酵素の阻害がアポトーシスを誘発し,一方チトクロームC酸化酵素の阻害がネクローシスを誘発することが見出されたことは,これら2つの細胞死の過程が,ミトコンドリア機能により分岐させられるという仮説がたてられることにおいて全く新しい知見と考えられる. 現在さらに固型癌の代表として,肝細胞癌の細胞株を用いた実験及び,ミトコンドリア阻害時の活性酸素の量を測定する系を用いて研究中である.
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