研究概要 |
接触系凝固因子の1つである活性型高分子キニノーゲン(HKa)が血漿中に存在する最も強力な癌細胞接着抑制因子(Anti-cell adhesion ACA)であることを申請者らは見出した(J.Cell Biol.1992)。その作用機作として癌細胞接着に最も重要と考えられているbeta_3 integrin receptorligand相互作用の抑制であることが判明した。今回更に、、HKaのACAドメインを同定することを目的に、従来、HKaの凝固活性に重要と考えられている軽鎖ビトチジンリッチドメイン(HRD)をPET_<3a>ベクターを用いて、Expressすることに成功した(recombinant HRD,gamma-HRD)。次にこのgamma-HRDとHKaを癌細胞と同時に、ヒドロネクチン(VN)をcoatingしたプレートに入れると、gamma-HRDはHKaの持つACA活性を強く阻害した。又興味あることは、gamma-HRDはプレートにcoatingした場合、細胞接着を増加させる活性を有していた。HKaをcoatingした場合は、このような活性は有していない。更に、gamma-HRDの細胞接着活性はArg-Gly-Asp(RGD)ペプチドで抑制された。このことは、gamma-HRDは細胞表面上に存在する、インテグリン受容体のリガンドであることが示唆された。同時に抗ビトロネクチンリセプター抗体により、gamma-HRDの細胞接着活性は抑制された。以上の事実は、gamma-HRDの細胞側の受容体はbeta_3-インテグリン(Vitronectin receptor,VNR)であることを示唆している。更に、HKaのACA活性はbeta_3-インテグリンに特異的な反応であることを考慮するとHKaは、“disintegrin"として作用すると考えられる。disintegrinは従来、蛇毒より得られた血小板凝集抑制活性を持つRGDを含むペプチドである。ヒト血漿中にdisintegrin様活性を持つものは従来報告はなく、今回の発見は特筆に値すると考えられる(J.Cell Biol.submitted)。更に重要なドメインを同定するため、合成ペプチドを用いて検討中である。
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