研究概要 |
当該年度は、ヒト骨髄間質細胞株KN101に対するレチノイン酸化合物の影響を検討した。All-trans retinoic acid(ATRA)およびその立体異性体である9-cis retinoic acid(9-cisRA)はKM101細胞のM-CSF,GM-CSF産生能を濃度依存性に増強した。これらはtranscriptionalなレベルで産生調節が行われていた。G-CSF,IL-6については恒常的に産生されているものの、レチノイドによる影響は受けなかった。さらに、9-cisRAはより強力なサイトカイン産生能を有しており、レチノイン酸抵抗性HL-60細胞に対する分化能や、極めて低濃度でHL-60細胞をむしろ増殖させることも明らかになった。間質細胞におけるレセプターの解析では、retinoic acid receptor(RAT)-alphaはATRA,9-cisRAにて発現が変化しなかったが、retinoid X receptor(RXR)-alphaは9-cisRAにてその発現が濃度依存的に増強した。さらに、正常ヒト骨髄間質細胞初代長期培養細胞においても同様の結果が得られた。これらの事実は、レチノイン酸がレセプターを介して骨髄間質細胞からのサイトカイン産生を調節しており、特に、RXRを介しての転写活性経路が重要な意義を持つと考えられる。また近年ATRAによる急性前骨髄性白血病(APL)に対する分化誘導療法がその高い寛解率と分子生物学的見地から注目されているが、治療初期の白血球増多症とそれに伴う致死的な呼吸不全が知られている。今回の検討結果よりその原因の一部はATRAが骨髄間質細胞に働きサイトカインの発現を変化させること、および治療初期の極めて低濃度のATRAが白血病細胞をむしろ増殖させた可能性が考えられ意義深いと考えられた。
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