研究概要 |
当該年度は、ヒト骨髄間質細胞に対するレチノイン酸の影響(細胞増殖、M-CSF,GM-CSFなどのサイトカイン産生、RAR,RXRなどのレチノイドレセプターの発現等)を検討する最終年度であり、研究成果のまとめをするとともに、各レチノイドレセプターの血球分化、増殖に及ぼす影響についても検討した。すでに、レチノイドは正常ヒト間質細胞におけるM-CSF,GM-CSFの産生を転写レベルで調整し、骨髄間質細胞ではRARの発現は構成的であるにもかかわらず、RXRの発現が9-cis retinoic acidにより濃度依存性に増強することを報告した。そこで、各レセプターの生物学的意義をより明らかにするために特異的にRAR,RXRの転写活性を増強し得る合成レチノイドを種々作製し、血液細胞の増殖、分化に対する影響を検討した。その結果、RXR選択的合成レチノイドは骨髄性白血病細胞の増殖を抑制するが、分化は誘導せず、RAR選択的レチノイドのみが白血病細胞の分化を誘導した。また、この過程でレチノイン酸に不応となった急性前骨髄球性白血病(APL)よりレチノイン酸耐性白血病細胞株を樹立した。この細胞におけるRAR,RXR遺伝子の各エクソンを含む全coding regionをPCRにて増殖し、TAクローニングの後にsequencerにて塩基配列を検討したところ、RXR遺伝子には全く異常を認めなかったが、RAR遺伝子のコドン411のC→Tへの点突然変異を認めた。従って種々の生物活性を有するレチノイン酸の情報伝達において、骨髄間質細胞からのサイトカイン産生の調節にはRXRを介する経路が、また白血病細胞の増殖、分化機構やレチノイド耐性獲得に関してはRARを介するpathwayがより重要であると考えられた。
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