我々はバイオテクノロジーを用いて、血漿中の高分子粘着蛋白von Willebrand因子(vWF)の活性化非依存性の受容体である血小板膜糖蛋白Ib-IX複合体蛋白の一部を培養動物細胞に発現することに成功し、分泌されたこの可溶性蛋白がin vitroでvWFと血小板の反応を特異的に抑制することをつきとめた。本研究は、GPIb-IXのドメイン特異的発現を通じて活性部位の決定を行ない、あわせて抗血栓作用をもちうる最小単位の同定と機能におよぼすアミノ酸変異や蛋白の翻訳後修飾の影響について検討することを目的とした。 初年度はすでに作成されたリコンビナントGPIb-IX受容体をコードするDNAを鋳型として、これがリガンドの理想的な競合抑制物質となるよう分子を改良した。現在までの結果によればこれらの蛋白は予想通り抗GPIα抗体と反応し、glycosylationも正しく受けていることが示唆されている。昨年度は、受容体機能におよぼす翻訳後修飾の影響を検討した。合成ペプチドや大腸菌フラグメントを用いた過去の研究成績より、蛋白の化学修飾が受容体機能に影響することが推定されているが、なかでもsulfationは重要である。すなわちsulfationをブロックする培養条件でリコンビナント蛋白を作成するとリガンドの結合が減少する事実をつきとめた。今年度の実験ではどのアミノ酸がsulfationを受けているかを決定することを目的とした。これまで3つのチロシン残基に注目し、mutagenesis手法によってそれぞれフェニルアラニンに置換したリコンビナント蛋白を作成することに成功した。そしてその変異蛋白の機能の詳細を検討した。その結果、vWFの結合は、実験条件により程度が多少異なるもののいずれの置換でも著明に低下しており、いずれの硫酸化チロシンも機能に重要であることが判明した。
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