血小板膜糖蛋白Ib/区複合体(GP Ib/区)とフオンビルブランド因子(vWF)の結合は、血小板の活性化を引き起こし血小板を凝集させ、血小板血栓(動脈血栓)形成の最初の重要なステップであると考えられている。我々はこの両者の結合がいかなる因子で調節されているかを知るため、GP Ib/区の組換え蛋白を作成し、変異体の導入や翻訳後修飾の変化により機能が変化するかを検討した。研究期間内での主な成果は、(1)GP Ib/区の分子異常を有する先天性出血性疾患(血小板型フオンビルブランド病)の患者遺伝子解析を行ない、その責任遺伝子変異を発見しかつこれをin vitro mutagenesisにて組換え体に導入してその異常分子を発現することに成功したこと、(2)翻訳後修飾としてチロシン硫酸化をとりあげ、in vitroの培養系で作成したチロシン硫酸化を欠如する異常GP Ib/区ならびにチロシンをフエニルアラニンに置換した変異体による検討を行ない、チロシン硫酸化がGP Ib/区のvWF結合機能に重大な役割を担っていることを示した。(3)組換え蛋白は可溶性蛋白(膜貫通部分を欠く)であるため、抗血栓作用が期待されるが、培養法の改良により、この蛋白を大量に得ることが可能となり、また純化法も確立した。これらの結果は、動脈血栓症の発症機序の本質に迫るものであり、血栓予防や治療の基礎的データとなるばかりでなく、抗血栓薬剤の開発に直接結びつく重要な知見である。
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