生体に不要になった細胞を、組織全体の機能に影響を与えることなく除去する生理学的細胞死をprogrammed cell deathまたはapoptosisという。造血因子は造血幹細胞のさまざまな分化段階に働きその増殖・分化を支え、赤血球、白血球、血小板等の成熟血球が生成される。ある分化段階での造血因子の欠如は幹細胞のapoptosisを引き起こすと考えられている。 造血幹細胞の分化におけるapoptosisの意義を検討する一環として、apoptosis関連抗原であるFas抗原の造血幹細胞での発現を検討した。Fas抗原は分子量3.5万の細胞表面蛋白であり、Fas ligandのレセプターである。正常ヒト末梢血では、Fas抗原(レセプター)は、顆粒球、単球、赤血球など成熟細胞に発現されているが、未熟な造血幹細胞ではFas抗原の発現は低く、分化とともにFas抗原が陽性となることが判明した。赤血球系の造血幹細胞分化のどの段階でFas抗原が陽性になってくるかを更に詳細に検討した。その結果、赤血球系の分化においてFas抗原は未熟な赤芽球バースト形成細胞(BFU-E)の多くは陰性であるが、成熟した前駆細胞である赤芽球コロニー形成細胞(CFU-E)では陽性となることが判明した。また、抗Fas抗体の添加でCFU-Eコロニーの形成が抑制され、CFU-Eは機能的なFasレセプターを有していると考えられた。赤血球系造血は、Fas ligandによるapoptosisを介してnegativeにコントロールされている可能性が示唆された。 このように、造血幹細胞は分化とともにFas抗原が発現され、造血因子以外のfactorであるFas ligandによるapoptosisを介する制御を受けやすくなると考えられた。
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