研究概要 |
本研究は薬剤性腎障害におけるクロライドチャンネルの役割を明らかにするために企画された。 腎臓において腎毒性物質に対して最も感受性が高い部位は近位尿細管の終末部(S_3部)であり、我々はまずこの部位のクロライド輸送機序についてウサギの単離尿細管を用いて主に電気生理学的に解析を試みた。その結果、S_3部の細胞内クロライド濃度は細胞内電位の変化に対応して変化すること、さらにカリウムチャンネルを阻害した状態で基底側のクロライドを除去すると脱分極を起こし、またこの反応がクロライドチャンネル阻害剤によって阻害されることを発見した。以上の観察より、我々はこの部位の基底側膜には確かにクロライドチャンネルが存在することを確認し既に報告した(J.Clin.Invest.92:1229-1235,1993)。 次にサイクロスポリンなどの腎毒性物質は容量調節性クロライドチャンネルを阻害するといわれているため、我々が発見したクロライドチャンネルの性質をさらに詳しく検討した。本科学研究費により購入したビデオミクロメーターによる細胞容量の測定実験などからこのチャンネルは生理的条件下で働いており、細胞容量の変化とは直接関係なしに細胞内cAMPの増加によって活性化されることが示され、また容量調節性クロライドチャンネルの阻害剤によっても影響を受けないことも確認した。 ただし我々はこうした一連の実験の過程で、上記のチャンネルとは異なった性質を持つクロライドチャンネルが同一部位に存在することを発見しており、後者のチャンネルと細胞容量調節機構および腎毒性物質との関連について今後検討する予定である。
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