目的:糸球体細胞外基質(ECM)の代謝調節には、メサンギウム細胞(MC)により産生されるECMに加え、その分解酵素であるmetalloproteinase(MMP)やそのinhibitor(TIMP)の関与が大きいものと考えられる. 本研究では、種々の刺激に対するMCにおけるMMPsの発現制御機構を明らかにする. 結果:摘出腎癌の健常部から精製したヒトMCを、10ng/mlのIL-1-β、TNF-α、PDGFで刺激すると、MMP-2、TIMP、fibronectin(FN)のmRNA転写レベルは、RT-PCRでの検討では増加した.これらの因子とTGF-βを同時に添加するとMMP-2の発現はそれぞれ抑制された.この反応は、サイトカインや増殖因子などの刺激ではMMP-2遺伝子の発現誘導を受けないことが特徴とされている線維芽細胞とは異なるものである.さらに、5mg/mlの少量のFNを添加すると、MMP-2の発現は正常の3-4倍誘導されたが、添加FNが50-100mg/mlと増量するにつれ正常の0.8-0.6倍に低下した.一方、ABC法で検討したヒト腎疾患(IgA腎症、急速進行性糸球体腎炎、糖尿病性腎症など)では、メサンギウム領域にMMP-2が染色され、またin situ hybridizationによってもmRNAの発現が確認された.ラット腎炎(ATS腎炎、1-22-3腎炎、馬杉腎炎)でのMMP-2は、その増殖度合いに応じて発現が確認された. まとめ:間葉系由来細胞であるMCは、線維芽細胞とは異なるMMP-2の発現制御機構を有していることが判明した.この制御機構においては、糸球体腎炎の急性期ではサイトカインや増殖因子はMMP-2発現を誘導して組織障害を修復し、また慢性期ではECM増生は逆にMMP-2発現を抑制して糸球体硬化を進展させることを示唆している.本研究により糸球体硬化の機序にMMP-2が関与していることが明確になった.
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