研究概要 |
糸球体硬化におけるメサンギウム細胞形質変換に関する研究として平成6年度以下の成果を得た。 1.ヒト腎生検組織における検討 各種のヒト腎疾患腎生検組織を用いて、各種の収縮関連蛋白のアイソフォームを指標として、疾患におけるメサンギウム細胞の形質変換を検討した。ミオシン重鎖にはSM1,SM2,胎児型のSMcmbの3種アイソフォームが存在するが,正常ヒト糸球体においてはいずれのアイソフォームも検出されなかった。またカルデスモン、トロポミオシン、α-平滑筋型アクチン等の収縮蛋白の発現も認めなかった。糖尿病性腎症、IgA腎症等において糸球体、特に、メサンギウム細胞にこれらの蛋白の増強した発現を認めた。糸球体硬化モデル(平成5年度)と同様に、ヒト腎疾患においても細胞収縮関連蛋白はメサンギウム細胞の形質変換を検出する上で有用である事が判明した。 2.新生児ラット腎における検討 新生児ラット腎組織を用いて、未熟糸球体における各種細胞収縮・収縮調節蛋白の発現を検討した。成人糸球体においては、発現していない、SMcmb、カルデスモン、α-平滑筋型アクチンを未分化糸球体メサンギウム細胞において認めた。従って、疾患腎におけるメサンギウム細胞の形質変換は、少なくとも一部は、脱分化の方向への変化である事が明らかになった。 各種ヒト疾患腎において糸球体硬化へと至る過程でメサンギウム細胞に形質変換が生じており、さらに変化した形質が保持される事が糸球体硬化の進展上、重要である事が判明した。また、各種細胞収縮・収縮調節蛋白及びそれらのアイソフォームはメサンギウム細胞の形質変換を検出する上で有用である事が明らかになった。今後は、これらをマーカーとして利用し、形質変換のメカニズムを解明し、糸球体硬化進展阻止のための方法の開発に寄与したい。
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