末期腎不全に陥り、生存のために血液浄化療法を要する患者数は毎年増加の一途をたどっている。腎不全への進展を阻止する治療法を開発する事は急務である.腎障害の成因は多岐に渡るが、最終的には組織学的に糸球体硬化に陥り、臨床的には末期腎不全の病態を呈するに至る。糸球体硬化において、中心的な役割を果たしているのはメサンギウム細胞である。各種腎疾患の進展過程において、細胞外基質成分の進行性の蓄積に併せて、メサンギウム細胞をはじめとする糸球体構成細胞の脱落が生じ、糸球体硬化に陥る。 本研究では、まず、メサンギウム細胞形質変換を検出するtoolとしてミオシン重鎖、カルデスモン等の各種の細胞収縮/収縮調節蛋白アイソフォームが有用であることを見出した。これらをmolecular probeとして糸球体硬化進展過程を解析したところ、糖尿病・部分腎摘・増殖性糸球体腎炎モデルにおいて、糸球体硬化進展過程で早期からメサンギウム細胞に形質変換が生じ、その結果、産生する細胞外基質成分の質的・量的変化が生じる事を見いだした。ヒト腎生検組織においても同様の形質変換を認めた。形質変換したメサンギウム細胞は容易に活性酸素等のアポトーシス誘導刺激によりアポトーシスに陥る事も判明した。さらに糸球体硬化が進行性のメサンギウム細胞アポトーシスにより形成されることを発見した。 これらの知見は糸球体硬化の分子機序についてのより深い洞察を与え、形質変換あるいはアポトーシスの解明の延長上に形質変換・アポトーシス制御による新しい腎疾患治療法の開発も期待できる。いずれにせよ、糸球体硬化の進展機構の解明が、腎不全阻止のための方法論の樹立に寄与することは間違いない。
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