腎臓の近位尿細管には非天然型のD-アミノ酸を選択的に分解するD-アミノ酸酸化酵素が存在するが、この酸素の基質となるD-アミノ酸は高等動物にはほとんど存在しないと言われているので、この酵素のもつ生理的役割はまったく不明である。生理的役割解明の一環として、この酵素の遺伝子の構造と発現を調べる実験を行った。 マウスでは他の生物と異なり、肝臓ではD-アミノ酸酸化酵素の遺伝子が発現していなかった。15系統のマウスの腎臓からRNAを抽出し、cDNAを合成し、PCR法によりD-アミノ酸酸化酵素のcDNAを増幅したところ、15系統すべてにおいてcDNAの増幅がみられた。これらのことからこれらのマウスの腎臓においてD-アミノ酸酸化酵素遺伝子が発現していることがわかった。これらのcDNAを制限酵素HindIIIで処理すると11系統のものは2つに切断されたが、4系統のものは切断されなかった。そこでこれらのcDNAの塩基配列を調べてみると、切断される系統と切断されない系統ではcDNAのなかほどにあるHindIIIの認識塩基配列に1塩基の置換があることがわかった。 次に、15系統のマウスからゲノムDNAを抽出し、制限酵素で切断し、D-アミノ酸酸化酵素のcDNAをプローブとして、サザンハイブリダイゼーションを行った。BamHIによる切断ではハイブリダイズするバンドに15系統で差が認められなかった。EcoRIによる切断では1系統だけが他の14系統のマウスと違ったハイブリダイゼーション・パターンに示した。PvuIIによる切断では4系統が他の11系統とちがっていた。HindIIIとPstIによる切断では制限酵素断片長の多型がみられ、15系統のマウスは4つのグループに分けられることがわかった。このようにD-アミノ酸酸化酵素遺伝子の構造にはマウスの系統間でかなりの差があることがわかった。
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