腎臓の近位尿細管には非天然型のD-アミノ酸を選択的に分解するD-アミノ酸酸化酵素が存在するが、この酵素の基質となるD-アミノ酸は高等動物にはほとんど存在しないと言われているので、この酵素のもつ生理的役割はまったく不明である。この酵素の生理的役割の解明のため、遺伝学的方法と生理・生化学的方法を用いた実験を行った。 D-アミノ酸酸化酵素のcDNAをプローブとして用いたインサイチュー・ハイブリダイゼーションの実験から、D-アミノ酸酸化酵素のmRNAは腎臓皮質の近位尿細管の上皮細胞にのみみられ、その他の遠位尿細管や糸球体の細胞にはみられなかった。この結果から、この酵素は近位尿細管の上皮細胞で合成され、その部位に局在し、機能することが明らかになった。同じような局在をするオルニチン脱炭酸酵素の場合とちがい、テストステロンの短時間処理はD-アミノ酸酸化酵素遺伝子発現の増大はもたらさなかった。 D-アミノ酸酸化酵素欠損マウスの尿中に多量に存在するD-セリンは、マウスに抗生物質を経口投与してもその量に変化がなかったことから、腸内細菌由来ではないことがわかった。飼料を別のものにかえたり、マウスを絶食させると、D-セリンの量は減少するが、なお正常マウスより多くのD-セリンが尿中に存在していたので、尿中のD-セリンの一部は飼料由来であるが、残りは成体由来であると考えられる。 尿成分のいくつかにD-アミノ酸酸化酵素欠損マウスと正常マウスではちがいがあることがわかった。そこで、この変化が酵素欠損と関連があるかどうかを調べるため、D-アミノ酸酸化酵素欠損マウスと正常マウスを交雑し、雑種第2代のマウスをつくり、D-アミノ酸酸化酵素を欠損したマウスをスクリーニングし、その尿成分の解析を行った。その結果、D-アミノ酸酸化酵素が欠損すると高タンパク尿がおきることが明らかになった。
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