腎臓の近位尿細管には非天然型のD-アミノ酸を選択的に分解するD-アミノ酸酸化酵素が存在するが、この酵素の基質となるD-アミノ酸は高等動物にはほとんど存在しないと言われいてるので、この酵素のもつ生理的役割はまったく不明である。そこで、この酵素の遺伝子構造と生理的役割を明らかにするため、マウスを用いて実験を行った。 PCR法による実験から、調べた15系統のマウスの腎臓すべてにおいてD-アミノ酸酸化酵素遺伝子が発現していることがわかった。15系統のうち4系統ではD-アミノ酸酸化酵素cDNAの中ほどにあるHindIIIの認識塩基配列に1塩基の置換があることがわかった。 15系統のマウスからゲノムDNAを抽出し、制限酵素で切断した後、D-アミノ酸酸化酵素cDNAをプローブとして用いてサザン・ハイブリダイゼーションを行ったところ、D-アミノ酸酸化酵素遺伝子の内部構造はマウスの系統間でかなりの相異があることがわかった。 D-アミノ酸酸化酵素cDNAを用いて、インサイチュー・ハイブリダイゼーションを行い、D-アミノ酸酸化酵素遺伝子の腎臓での発現を調べた。その結果、D-アミノ酸酸化酵素は近位尿細管の上皮細胞で合成され、その部位に局在し、機能することが明らかになった。 D-アミノ酸酸化酵素が欠損すると尿中に多量のD-アラニンとD-セリンが排泄されることがわかった。そこでD-アラニンとD-セリンの由来を調べた。D-アミノ酸酸化酵素欠損マウスを無菌化すると尿中のD-アラニンの量は激減し、この無菌マウスに腸内細菌を定着させるとD-アラニンの量が増加することから、D-アラニンは腸内細菌由来であると結論された。一方、D-セリンはマウスに抗生物質を投与した実験から、腸中細菌由来ではないことがわかった。組成のちがう飼料を用いた実験やマウスを絶食させた実験から、D-セリンの一部は飼料由来であるが、残りは生体由来であることが明らかになった。
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