上皮成長因子(epidermal growth factor:EGF)は細胞の増殖・分化に関わる因子である。今までにEGFが急性腎不全(ARF)の修復において重要な役割を担い、また血小板数を減少させることでARFの腎障害を軽減できることを報告した。EGFとARFの修復過程への関係を明らかにするために、ARFラットおよび血小板数を減少させARFの進展を抑制したラットの腎におけるEGFおよびそのgene levelでの発現を検討した。方法で用いた抗血小板抗体(APS)はラット血液より採取・精製した血小板をヤギに投与し、抗ラット血小板抗体を産生させた後に血清より分離精製した。そしてAPSの前投与により血小板数を5×10^4/mul以下とし、HgCl_2誘発ARFラットにおいてその腎障害を抑制することができた。これにより血小板減少させたARF抑制ラット、血小板減少なしのARFラットと正常ラットを用いて、その全腎組織と単離糸球体におけるpreproEGFmRNAの発現をNorthern analysisで検討し、さらにEGFの腎組織内局在との関連についても検討することができた。その結果、APS投与群(ARF抑制群)では比投与群に比し尿細管障害は著明に軽減されていた。またpreproEGFmRNAは正常ラット腎組織で高い発現を示したがARFラットでは著明に低下していた。しかし、APS投与群ではその発現の回復傾向がHgCl_2投与後12時間後より認められ、尿細管壊死の完成する24時間後に著明となっていた。単離糸球体では全てのラット間でpreproEGFmRNAの発現には差が認められなかった。正常ラットでEGFは遠位尿細管を中心に局在したが、ARFラットでは近位尿細管にも認められた。以上より、EGFのdistributionの変化がARF腎組織内でおこる。また、preproEGFmRNAの著減がARFでおこるがARF抑制ラットではその発現の改善が認められたことより、EGFは尿細管障害の修復過程において重要なmediatorとして作用していると考えられた。
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