Dahl食塩感受性ラットに4週間高食塩食を与え、飲水として3%タウリン含有水を投与した群と非投与群とで血圧並びに尿中電解質、カリクレイン排泄量、腎臓のカリクレインのメッセンジャーRNA(mRNA)発現量の差を比較した。タウリン投与群では血圧の上昇が抑制され、尿中カリクレイン排泄量および腎カリクレインmRNA発現量がコントロール群より高値であった。尿中ナトリウム排泄量には差がなかった。また、タウリンの効果の特異性について、構造が類似した非含硫betaアミノ酸betaアラニンの効果と比較検討したが、betaアラニン投与では血圧、カリクレインを含め何れのパラメーターともコントロール群と差がなくタウリン類似の効果は全く見られなかった。さらに、タウリン投与による効果がカリクレインによるキニン産生増加を介するものかを検討するためタウリン投与と同時に浸透圧ミニポンプを用いてキニンのB2受容体の特異的拮抗薬Hoe140(500ug/kg/day)を皮下に4週間連続投与したが、タウリンによる降圧およびその他の効果に対して殆ど影響を及ぼさなかった。以上の結果よりタウリンは食塩による高血圧の治療に有効で、その機序として腎カリクレイン-キニン系の活性化による圧-利尿曲線の低圧方向への偏位が関与していることが示唆された。 そこで、カリクレイン・キニン系の活性低下が成因の一つと考えられている本態性高血圧症の治療薬として応用できるか否か、入院中の本態性高血圧症患者に標準食(食塩7g/日)摂取下でタウリンを6g/日、1週間投与し、その効果を検討した。 未だ症例数が少なく、現在も研究を続行中であり、統計処理をするに至っていないが一部の症例においてタウリンが尿中カリクレイン排泄量の増加とNa利尿をもたらすことが示唆されたが、血圧の変化は明らかでなかった。その理由として、タウリンの降圧効果はサイアザイド系利尿薬のように緩徐に発現すること、対象者が高齢であったためタウリンへの反応が減弱している可能性などが考えられた。
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