本年度は高ビリルビン血症患者の遺伝子解析に主力を注いだ。高ビリルビン血症が続き、胆汁中にグルクロン酸抱合ビリルビンがまったく検出されず、phenobarubital投与が無効であることにより、Crigler Najjar I型と診断された患者の遺伝子解析を行った。患者のbilirubin Uridine 5'-diphoshate-glucuronosyltransferase (UGT)遺伝子について塩基配列を検索した結果、840番の塩基に1塩基置換(C→A)が起こっていた。患者はこの塩基置換に関してホモであり両親はヘテロであった。C→Aの置換により当該部分のコドンはstopとなった。置換の起こっている840番はUGTの活性中心と推定されている領域よりもはるかに前方である。したがって、患者ではUGTタンパクの一部が合成されたとしてもUGT活性はまったく無い、著しく高ビリルビン血症が発症したのであると結論づけられた(pediatr.Res.に報告)。次に血中ビリルビン値がやや高値であり、肝臓のUGT活性が低いことからGilbert's syndromeと診断された6名の患者のUGT遺伝子の解析を行った。すべての患者でUGT遺伝子に1塩基置換が認められた。塩基置換のあったコドンはstopとはならず、アミノ酸置換が起こる変異であった。塩基置換の位置は2人に患者で一致した以外それぞれと異なっていた。さらに、全患者において正常遺伝子とのヘテロであった(Lancetに印刷中)。タンパクの立体構造解析により、立体構造が大きく変化している結果を得た。タンパクの立体構造が大きく変化することによりUGT活性が低下すると推定された。UGTの立体構造が大きく変わる遺伝子をホモに持つとUGT活性は著しく低くなりCrigler Najjar syndrome type IIの症状を現わすことを昨年発表しており、代表的な遺伝性高ビリルビン血症患者の遺伝子解析をすべて発表したこととなった。
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