研究概要 |
肝不全患者に対する補助療法としてハイブリッド型人工肝臓や遊離肝細胞脾内移植の開発が進められている。しかし、現在のところ培養肝細胞や移植肝細胞の増殖が期待するほどではなく、何らかの肝細胞増殖法の開発が望まれている。一方、当教室では凍結手術後に誘導される負の免疫活性,特に移植腫瘍増殖につき報告してきた。そこでこれらに着目し、本研究では凍結融解処理肝組織をラット大腿部皮下に移植し前感作せしめた後、その血清中への肝細胞増殖促進因子の誘導と性質、肝再生機序の解析および臨床応用の可能性を検討したものである。以下に主な成績を述べる。 (1)肝細胞増殖活性の検討 (a)凍結融解処理肝組織感作後0日、7日、14日および12日目にラット遊離肝細胞を脾内に移植し、その増殖程度をHE染色、PAS染色およびPCNA染色により評価した。その結果、感作後14日目が最も強く、初代培養肝細胞を用い凍結融解処理肝組織感作血清(感作血清)を添加した検討でも同様の結果が確認された。 (b)初代培養肝細胞に健常血清、70%肝切除血清、肝細胞増殖因子(hrHGF,10ng/ml)および上記感作血清を各10%当て培地に添加後、増殖程度を比較した。その結果、感作血清添加群は70%肝切除血清添加群とほぼ同程度の増殖活性を示したが、肝細胞増殖因子添加群に比べると若干の低値を示した。 (2)凍結融解処理肝組織感作血清の部分精製 (a)Mono-Qカラムを用い、肝細胞増殖活性を指標に感作血清を部分精製し、その分子量をゲル濾過法にて検索すると、約110kDaと約90kDaにピークがみられた。後者は肝細胞増殖因子の分子量とほぼ一致してたが、前者は未知の増殖因子の可能性が示唆された。 (b)感作血清中に含まれる肝細胞増殖因子を測定したところ、感作後1日目をピークとして漸減し、14日目には1日目の4分の1以下の低値となった。 (3)肝再生の機序の解析 初代培養肝細胞を用い,肝細胞増殖因子(HGF)による細胞内情報伝達機構を解析し、その一部を明らかにした. 凍結融解処理肝組織感作血清中に肝細胞増殖因子とは異なる未知の肝細胞増殖因子が存在する可能性を立証できた。本感作法は手技的にも簡便であり、肝臓に障害を負荷せず増殖促進因子を誘導できるため、臨床的にもその有用性が高まるものと結論された。
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