研究概要 |
1 30例の重症例(多発外傷10、重症熱傷5、大手術後15)を対象に、臓器酸素化指標としての胃トノメーターの有用性について検討した。 2 胃トノメーターによる胃粘膜内pH値(pHi)は、外傷性ショックからの蘇生後、あるいは大手術直後には、7.3以下に低下したが、大部分の症例で、侵襲暴露から72時間以内に、7.3以上に回復した。しかし、7.3以下を72時間以上遷延した症例は、臓器不全の合併を認め予後不良であった。 3 外傷性ショック15例について,pHi値と、他の指標との関連を見ると、受傷後72時間以内では、乳酸値・IL-6・動脈血中ケトン体比(AKBR)・好中球エラスターゼ(PMNE)・PAI-1と有意の相関を認め、侵襲の程度とpHiとの間に密接な関連を認めた。 4 Swan-Ganz catheterによる循環諸量について検討すると、pHiと酸素供給量(Do2)および酸素消費量(Vo2)との間に、有意の負の相関が認められた。従って、敗血症など代謝亢進状態における消化管粘膜の酸素化状態は,Swan-Ganz catheterによる酸素需給の指標と一致せず,pHiのモニタリングは、組織酸素代謝の新たな情報を提供するものとして意義が認められた。 5 腹部臓器血流改善策としてDopaminおよびPGE1の投与を行ったが、後者に比較的,pHiの改善を認めた。 6 胃液pHとpHi値との間に有意の負の相関があり,pHi測定に当たっては、H2ブロッカーの投与が必要と考えられた。 以上により、外傷性ショック後および大手術後における臓器酸素化指標として、また、敗血症における臓器障害の予知あるいは予後指標として、胃トノメーターの有用性を示唆するデータが得られたが、今後は、代謝亢進状態における酸素摂取率の低下をいかに改善させるかが臨床上の課題と考えられる。
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