研究概要 |
1.肝切除という外科的ストレスの大きい手術侵襲が生体に加わったときの、細胞内情報伝達系の動態を検討した。末梢リンパ球の細胞膜表面レセプターの一つであるβ2-アドレナリンレセプターの特異的結合能を放射性同位元素を用いたレセプター結合アッセイにて測定したところ、以下の知見が得られた。 (1)肝切除後にはβ2-アドレナリンレセプター最大結合能(Bmax)は有意に減少したが、結合親和性(KD)に変化は認められなかった。一方肝切除以外の手術侵襲ではBmax,KDともに変化はなかった。 (2)このBmaxの変化はリンパ球の各サブセットそのもののBmaxの減少によるものであった。またこのBmaxの減少は血清中アドレナリン濃度上昇に基づくダウンレギュレーション機構の影響によるものではなかった。 (3)肝切除後の動脈血中ケトン体比(AKBR)が0.7以下に低下した症例ではBmaxの減少が有意に大きく、Bmaxが従来のパラメーター(出血量、輸血量、手術時間など)では関知し得ない外科的ストレスにも影響されていることが示唆された。 (4)肝切除による全身の代謝失調状態が、何らかの機序で末梢血球のレセプター結合能にまで影響を与えいると考えられた。 2.免疫抑制剤の一つであるFK506の細胞質内レセプターであるFK506結合タンパク(FKBP)は、本来ある種の内因性生理活性物質やタンパクに対するレセプターであるが、その動態や機能については未知の部分が多い。このFKBPに血清内可溶型のものがあり(可溶型FKBP12=sFKBP12)、肝切除後や生体部分肝移植後の変動を測定し、その由来、動態、機能、代謝を検討しているが、現在までに得られた知見は以下である。 (1)肝切除などの手術侵襲によりsFKBP12が上昇する症例がある。 (2)生体部分肝移植後に急性拒絶反応が起きた症例ではsFKBP12が急激に上昇しており、sFKBP12の測定が拒絶反応の早期診断に有用であることが示唆された。
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