外科手術侵襲時に生じる生体防御反応においては急性相反応物質の主たる誘導因子であl1L-6が重要な役割を果たしている。侵襲時には例外なく高lL-6血症がおき、レセプターを介して細胞内に情報伝達が行われる。最近、血中に存在する可溶性lL-6レセプター(slL-6R)が報告された。このslL-6Rl1L-6量を調節していると解されるが、手術侵襲時の変動、lL-6値との関連性、由来臓器については全く不明である。我々は食道癌および胃癌手術を中心とする患者の血液、ドレーン浸出液の検討により以下の知見をえた。 (1)血l1L-6値は例外なく術後早期(1日目に最高値)に上昇し、以後減少した。合併症を起こした場合には再上昇した。lL-6値の再上昇は合併症判定の良い指標である。術後上昇度は手術侵襲の強さ(手術時間、出血量)と相関した。同程度の手術侵襲症例を比較すると開胸を伴う手術で有意の上昇がみられ、開胸肺操作がlL-6誘導の一因子となっていることが示唆された。 (2)ドレーン液中のlL-6値は血中のそれに比べ極めて高い値(約100倍)を示した。全白血球を採取しノーザンブロット法によりlL-6mRNAを検索したところ、ドレーン浸出液中細胞内に術後早期より強いlL-6mRNAの出現が確認された。しかし末梢血細胞内には認められなかった。以上より、lL-6は手術局所で主に産生され、ほぼ同時に血中に流入すると考えられる (3)血中slL-6Rは多くの症例において術後減少し、その後増加、術前値に復した。この結果は生体防御としての高lL-6血症という反応と手術早期におけるslL-6Rのconsumptionあるいはdown-regulationという機構の存在を示唆している。現在、この解析をin vitroにおいてすすめている。 (4)ドレーン浸出液中slL-6R値は血中のそれとほぼ同濃度であった。slL-6Rは手術局所に集合する細胞から主に産生(分泌あるいはshedding)されるものでないことを示唆している。
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