胃粘膜防御の増強によるDNA損傷の修飾と胃発癌抑制

1993 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 05671018
• 研究機関: 京都府立医科大学
• 研究代表者: 山根 哲郎 京都府立医科大学, 医学部, 講師 (50166766)
• キーワード: 胃発癌抑制 / 胃粘膜防御 / DNA損傷

研究概要

消化器発癌の実験的研究において、一定量の低濃度の化学発癌剤の投与では100%の動物に癌が発生するわけではない。動物に同系のものを使用し、一定量の化学発癌剤を投与しているにもかかわらず癌が発生する動物と発生しない動物があり、この両者間で何が異なっているのかを検討することは発癌メカニズムの解明の助けになると推察される。そこで胃発癌過程を胃潰瘍発生と置き換えるという仮説を立ててみた。攻撃因子としては化学発癌剤であり、一方、防御因子として胃粘膜の防御に影響を与える因子が存在し、胃粘膜が化学発癌剤に暴露されることを保護しており、その強弱が癌発生の個体差として示されるのではないかと仮説した。その証明として胃粘膜防御機構である粘膜血流や粘液合成・分泌が動物の個体間で差がありプロスタグランディン(PG)E2、I2などのcytoprotectionが関与しているのではないかを検討する。また、活性酸素によるDNA損傷の指標として胃粘膜の8-ヒドロキシグアニン(8-OH-dG)を測定し粘膜の障害を検討する。さらに胃粘膜防御因子増強作用を有するRepamipideを投与し癌発生にどのような影響を与えるか検討する。
1.N-Ethyl-N′nitro-N-nitrosoguanidine(ENNG)投与によるマウス十二指腸発癌における胃粘膜防御因子増強剤の腫瘍発生の抑制効果の検討:ENNGを100mg/Lの濃度でC57/B16マウスに4週間投与する。その後、水道水を15週間投与し、同時に胃粘膜防御因子増強剤のRebamipideを0.1%と0.001%(6mg/kg)の濃度で混餌投与して胃粘膜防御因子を増強し、実験開始第16週目に十二指腸を摘出し、癌発生率を検討し、胃粘膜防御因子の増強による発癌の抑制効果について現在検討中である。
2.N-Methyl-N′-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG)投与によるラット腺胃粘膜におけるDNA損傷について:MNNGを100mg/Lの濃度でWiatarラットに24時間自由飲水させた後に、経時的に胃粘膜を摘出し、8-OH-dG濃度を個別に測定し、胃粘膜の損傷と胃癌発生との相関について現在検討中である。8-OH-dG濃度の測定はDMH投与によるラット大腸粘膜にて検討し、その測定手技は安定したものとなっている。

研究成果

• [文献書誌] Okuzumi.,Yamane T.,et al.: "Inhibitory effects of fucoxanthin,a natural carotenoid,on N-etyl-N′-nitro-N-nitrosoguanidine-induced mouse duodenal carcinogenesis" Cancer Letters. 68. 159-168 (1993)
• [文献書誌] 奥山 晃,山根哲郎,他: "Green Tea Extractによるマウス十二指腸発癌の抑制について" 消化器癌の発生と進展. 5. 77-80 (1993)
• [文献書誌] 稲掛雅男,山根哲郎,他: "家族性大腸腺腫症の大腸粘膜オルニチン脱炭酸酵素活性" 消化器癌の発生と進展. 5. 179-181 (1993)
• [文献書誌] 大矢和彦,山根哲郎,他: "抗ヒトオルニチン脱炭酸酵素(ODC)モノクローナル抗体を用いた大腸癌組織ODCの染色性と組織内ODC活性について" 消化器癌の発生と進展. 5. 343-346 (1993)
• [文献書誌] 山根哲郎、高橋俊雄: "ポリフェノール化合物による消化器発癌の予防" Oncologia. 27. 29-33 (1994)
• [文献書誌] Inagake M.,Yamane T.,et al.: "Recent Advances in Manegement of Digestive Cancers" Inhibitory effect of green tea extract against azoxymethane induced colon carcinogenesis in rat, 474-476 (1993)