膵移植は主としてインスリン依存型糖尿病患者を対象としているが、これは一種の自己免疫疾患であり、どのような条件下で移植膵にこの自己免疫機転が影響してくるのかを実験的に検討した。MHC不適合なLewis系ラット(RT1:l)の骨髄細胞(50×10^6個)を新生児BB/Worラット(RT1:u)に静脈内投与し、ドナー特異的寛容を導入した。糖尿病となったBB/Worラット(糖尿病自然発症率:88%)に対し、Lewis系ラットをドナーとして膵および膵ラ島移植(分離ラ島1200-1800個を門脈に注入)を行った。膵移植した群では全例が正常血糖のまま死亡した(平均16日)が、皮膚発赤・膵腫などからGVHDが強く示唆された(寛容導入しない場合のGVHDは認めず、平均27日で拒絶した)。ラ島を寛容ラットに移植してもGVHDは起こさず、平均30日で血糖上昇を来し現病の再発と考えられた。続いて、GVHD防止のためLewis系ラットを全身放射線照射(1200Rad:移植前24-48時間)の後ドナーとし糖尿病発症前および発症後のBB/Worラットに膵移植を行った。放射線照射した群では膵全体を移植したにもかかわらずGVHDを認めず100日以上正常血糖を維持した。自己膵でのラ島崩壊時期である前糖尿病段階で移植した群でもやはり同様にラ島移植より膵移植のほうが長期に正常血糖を維持可能であり、膵移植片はラ島炎に抵抗性があると推察された。このように、免疫寛容BB/Worラットは免疫不全の状態にあり、移植片に随伴する移入lymphoid cellによりGVHDを起こした。このような免疫不全状態でもMHC不適合の移植ラ島を破壊できるが、膵移植では選択的ラ島破壊にやや抵抗性を認め、この現象は糖尿病発症前での移植でも同様であった。
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