消化器癌の肝転移機構を解明し、それに特有な性質を利用して肝転移の診断や予防、治療を行うことを目的にして、肝転移関連モノクロナール抗体の作製を行った。その作製のために、肝転移機構の全ての性状が備わっていると考えられるヒト大腸癌肝転移巣からの癌細胞を免疫源とした。また、高肝転移ヒト大腸癌細胞培養株を樹立し、肝転移能の増強とともに変動する性状を検討した後、高肝転移細胞に対するモノクロナール抗体の作製を行った。手術で得られたヒト大腸癌肝転移細胞を免疫源として細胞融合法にてモノクロナール抗体を作製した結果、(1)ヒト大腸癌やその肝転移巣と高率に反応し、(2)大腸癌細胞と肝細胞の接着を有意に阻害する、(3)これまで報告の細胞接着分子とは異なる抗原を認識するモノクロナール抗体2種類を得た。ヒト大腸癌細胞株をSCIDマウスの脾内に注入し、得られた肝転移巣の細胞を再び脾内に注入して肝転移を作製する操作を繰り返して、高肝転移細胞を樹立した。高肝転移能の獲得過程における癌細胞表面抗原の変化をみると、増殖因子受容体や糖鎖抗原の発現量に変化はなかったが、CEAやsialyl Le^a抗原など接着分子の発現が有意に増強した。高肝転移細胞になったことで発現あるいは消失する未知の抗原を認識するモノクロナール抗体を得るため、高肝転移細胞を免疫源として数回の細胞融合操作を行ったが、これまで、高肝転移細胞とその親株で反応性を異にする抗体は得られていない。本研究によって、ヒト大腸癌の肝転移形成に細胞接着分子が重要な役割を担っていることが示された。肝転移関連モノクロナール抗体を、いわゆる「癌のミサイル療法」の担体として用いた肝転移の治療や、モノクロナール抗体が認識する抗原あるいは細胞接着分子の大腸癌原発巣における発現の多寡、すなわち、高肝転移細胞の含有率から肝転移ハイリスク例を選定する等の臨床応用に関しては、今後の課題として残された。
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