われわれはすでにマウス癌細胞において、ミニサテライトDNAを用いたDNAフィンガープリント法にて、DNAが強いヘテロ化状態にあることが癌細胞が転移能を獲得する原因の一つであることを明らかにしてきた。本研究は、ヒト癌細胞においてもマウス癌細胞と同様に、細胞の遺伝的不安定性が変化することが、癌細胞の悪性度を規定する一因子と成り得ることを実証するものである。すなわち、患者白血球DNAと手術で得られた癌細胞DNAの組換え変異の頻度を比較し、指数化すると同時に、この指数と患者予後との関連を追求することを目的としている。大腸癌患者6名からそれぞれ末梢血液を採取した。さらに、これらの患者の切除された新鮮手術標本から、癌組織および、その周辺の正常粘膜を切除し、それぞれのDNAを抽出した。これらのDNAを適当な制限酵素で消化し、アガロースゲル電気泳動に供した後、ヒトミニサテライトプローブhPc-1を用いてサザンハイブリダイゼーションを行った。昨年度は、それぞれの患者個人にはDNAの多型は認められたが、患者末梢血、癌周囲正常粘膜、癌組織DNAの間には、組換え変異は認められなかったことを報告した。今年度は、採取した癌組織内の正常組織のコンタミネーションを防止するため、癌組織DNAの調製を厳密に行うとともに、新たに大腸癌患者2名を追加し、hPc-1を用いたDNAフィンガープリント法による分析を行った。しかし、いずれの症例も組換え変異は認められなかった。
|