マウス癌細胞においては細胞の遺伝的不安定性に基づくDNAのヘテロ化状態が癌細胞の転移能獲得と密接に関連していると考えられることから、本研究ではヒト癌細胞においても同様に、細胞の遺伝的不安定性が変化することが癌細胞の悪性度を規定する一因子と成り得ることを実証することをめざした。この目的のため、患者白血球DNAと手術で得られた癌細胞DNAの組換え変異の頻度を比較し、指数化すると同時にこの指数と患者予後との関連を検討することとした。大腸癌患者4名からそれぞれ末梢血液を採取すると同時に、切除された新鮮手術標本から癌組織および周辺正常粘膜を採取し、それぞれのDNAを抽出した。これらのDNAを適当な制限酵素で消化し、アガロースゲル電気泳動に供した後、ヒトミニサテライトプローブhPc-1を用いてサザンハイブリダイゼーションを行い、DNAフィンガープリント法により解析した。結果として、それぞれの患者個人にはDNAの多型は認められたが、患者末梢血、癌周囲正常粘膜、癌組織DNAの間には組換え変異は認められなかった。また、p53遺伝子変異との関連についても7名の大腸癌患者についてSSCP解析を用いて検討したが、エクソン6においてはいずれも変異は認められなかった。以上より、癌悪性度とDNA組換え変異との関連、さらにDNA組換え変異とp53変異との関連については当初の目的を達成することはできなかった。今後の症例数の蓄積とともに、マウス癌細胞についてのin vitro実験から得られる結果とヒト癌におけるin vivo系との違いを充分に認識した上でのアッセイシステムの再構築を検討しなければならないと思われる。
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