研究概要 |
アフリカ原産の齧歯類であるマストミスは腺胃の胃底腺領域にカルチノイドが自然発生することで知られている。ヒト胃カルチノイド発生のモデルとしてこのマストミス胃カルチノイドの発生に係わる諸因子および発生の機構を解明することは重要な問題と考えられる。我々はこれまでに,マストミスにH2-blockerの長期投与を行い高率にカルチノイドの発生が認められることを報告してきた。今回われわれはガストリンを中心として種々環境の変化によるカルチノイドの発生率の違いを検討し,カルチノイド発生,増殖の機構との関与を解析した。 1)マストミスにfamotidineを1日量40mg/kg自由飲水させ,H2-blockerの投与期間別(3,5,6,8,10.12カ月)にカルチノイド発生率を検討した。カルチノイドの発生率はほぼtime dependentであった。 2)さらに同様の方法で早期短期投与をおこなったが、短期投与ではカルチノイド発生率に影響なく,投与期間が長くなるにつれ発生率が上昇した(6か月で有意差あり)。3)マストミスに迷走神経切除術を行い,そのため生じる高ガストリン血症がカルチノイド発生に及ぼす影響を検討した。コントロールとの比較にて有意差は認めなかったが,迷切群にて発生率が上昇する傾向をみた。4)EGFがカルチノイド発生に及ぼす影響を見るため,顎下腺切除を行った。顎下腺切除はfamotidine投与によるカルチノイド発生を抑制する傾向が認められた。5)ペンタガストリン投与ではヌードマウスに移植されたカルチノイドに対する増殖作用は認められなかった。現時点での推定は,マストミス胃カルチノイド発生に対するガストリンの関与はガストリンがpromotorとして作用するか,またはinitiatorとしての作用はないがcell cycleを亢進することでinitiationの成立を高めるということである。
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