1.ヌードマウスの胃へのヒト胃癌株の移植、いわゆる同所移植による肝転移の併発モデルにおいて、培養細胞の状態では肝転移がまったく見られず、培養細胞を一度ヌードマウス皮下に移植して腫瘍塊を作成し、これを細切したものでは高率に肝転移を併発したが、この理由として細胞接着能に注目し、カドヘリンの局在から検討した。その結果、肝転移を併発する腫瘍塊ではカドヘリンの局在が示されたのに対し、肝転移のみられない培養細胞では局在は認められなかった。すなわち、細胞接着能が肝転移の形成に関与していることが示唆された。 2.原発巣と転移巣の(発育部位の違いによる)生物学的差異を検討する目的で、前述した方法で培養細胞から作成した腫瘍塊を、ヌードマウスの胃に移植し肝転移を形成したが、この肝転移を再度ヌードマウス皮下に移植し、最初の皮下腫瘍と比較した。その結果、発育速度は、皮下よりも胃、胃よりも肝で速い成績が得られたが、肝転移から作成した皮下腫瘍と最初の皮下腫瘍とのあいだには差は認められなかった。すなわち、発育速度は発育環境に大きな影響を受けるとともに、いわゆる肝転移を形成する腫瘍細胞が高度に選択されたものであるといる推測は否定的であった。もちろん発育速度のみで論ずるのは不十分であり、今後種々の面から検討を加える必要があるものと考えられた。
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