ヒト食道癌における増殖因子による細胞接着制御機構

1993 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 05671062
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 井上 雅智 大阪大学, 医学部, 助手 (80232560)
• 研究分担者: 門脇 隆敏 大阪大学, 医学部・附属病院, 医員 ; 田村 茂行 大阪大学, 医学部・附属病院, 医員 ; 塩崎 均 大阪大学, 医学部, 講師 (70144475)
• キーワード: E-Cadherin / 上皮増殖因子(EGF) / α-Catenin / ヒト食道癌細胞株TE-2 / EGFR / チロシンキナーゼ / チロシン・リン酸化 / β-Catenin

研究概要

上皮細胞間接着因子(E-Cadherin;E-cad)の細胞内裏打ち蛋白であるCateninsはE-Cadの接着機能を制御していると考えられており、in vivoでの上皮増殖因子(EGF)による接着機能の制御機構を解析する上でCateninの発現性を検索することは重要である。5年度では食道癌切除標本の連続切片におけるE-Cadとα-Cateninの発現性を免疫組織学的に検討した。結果は両者とも80%の症例に減弱を認め、分化度が低くなるに従い、また浸潤度が増すに従い有意に減弱しており、リンパ節転移との相関ではE-Cadが軽度減弱例でα-cateninの消失例で減弱例より有意に転移陽性が多くなっていた。すなわちE-Cadが発現していてもα-Cateninの消失により細胞接着機能が傷害されることが明らかになった(CANCER RESEARCH 54,291-296,1994)。
in vivoの解析に平行してin vitroの実験を行っている。すなわちヒト食道癌細胞株TE-2をlimitting dilutionによりcloningしたE-cad(+)株(TE-2R)とE-cad(-)株(TE-2S)を用いてEGFの細胞接着制御機構を二次元、三次元培養にて解析している。TE-2SはEGF刺激により変化しなかったがTE-2RはEGFにより細胞間接着が阻害され、癌細胞の遊走、浸潤が強く誘導された。このEGFの接着抑制機能がEGFRのチロシンキナーゼのリン酸化に引き続き起こるE-cad関連蛋白のチロシンリン酸化が関与している可能性が強く、免疫沈降によるwestern blotting法を用いEGF刺激によるE-cad,E-cad関連蛋白質のチロシンリン酸化を調べたところ102KDの蛋白にチロシンリン酸化がみられた。さらにこの蛋白がβ-Cateninであることが同定でき、現在投稿中である。

研究成果

• [文献書誌] 井上 雅智: "食道癌及び胃癌におけるカドヘリン、α-カテニンの発現性とリンパ節との関連について" 日本消化器外科学会雑誌. (in press). (1994)
• [文献書誌] 井上 雅智: "Endoscopic Mucosal Resection of Early-Stage Esophageal Cancer." Recent Advances in Management of Digestive Cancers Springer-Verlag. 1. 452-454 (1993)
• [文献書誌] 土岐 祐一郎: "Correlation between E-Cadherin Expression and Invasiveness in Vitro in a Human Esophageal Cancer Cell Line." CANCER RESARCH. 53. 3421-3426 (1993)
• [文献書誌] 塩崎 均: "Comparison of Postoperative Results Following Terminal Esophagoproximal Gastromy and Esophageal Transection for Esophageal Varices." Surgery Today. 23. 113-119 (1993)
• [文献書誌] 土岐 祐一郎: "Prognostic Value of DNA Ploidy in Squamous Cell Carcinoma of Esophagus.Analyzed with Improved Flow Cytometric Measurement." CANCER. 72. 1813-1818 (1993)
• [文献書誌] 塩崎 均: "Correlation Between Expression of E-Cadherin and Metastasis and Invasion in Human Esophageal Cancer." Recent Advances in Diseases of the Esophagus.Springer-Verlag. 1. 514-518 (1993)
• [文献書誌] 塩崎 均: "転移に関係する接着因子(1)カドヘリン・ファミリー" 臨床科学. 29. 1125-1129 (1993)
• [文献書誌] 塩崎 均: "Immunohistochemical Detection of α-catenin Expression in Human Cancer." American Joural of Pathology. 144(in press). (1994)
• [文献書誌] 門脇 隆敏: "E-Cadherin and α-Catenin Expression in Human Esophageal Cancer." CANCER RESEARCH. 54. 291-296 (1994)
• [文献書誌] 塩崎 均: "食道癌(固定癌)の進展形式と接着分子" Journal of Gastrointestinal Research. 9(in press). (1994)
• [文献書誌] 塩崎 均: "癌におけるE-カドヘリンとα-カテニンの意義" 血液,腫瘍科. 28(in press). (1994)
• [文献書誌] 塩崎 均: "最新外科ハンドブックシリーズ/外科医に必要な分子生物学入門" 中山書店(in press), (1994)
• [文献書誌] 塩崎 均: "臨床医のための実験医学シリーズ 細胞接着分子と関連疾患" 羊土社(in press), (1994)