研究概要 |
内視鏡下あるいは手術時に切除された大腸ポリープを対象とし,全例にマイクロウエーブ固定,パラフィン包埋を行った。モノクローナル抗体PAb1801(Novocastra)を用いてABC法で免疫染色を行うと共に,その隣接切片から顕微鏡下に目的とする部分を切り出し,DNAを抽出した。具体的には,腺腫内癌の場合,正常粘膜(N),腺腫(A),癌(T)からそれぞれDNAを抽出し,以下の遺伝子解析を行った。まず,p53遺伝子の3'flanking regionのBam HI polymorphismを利用し,PCRで増幅の後,RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法にて,p53遺伝子のalleleのlossを検索した。また,PCR-SSCP(Single Strand Conformation Polymorphism)法にて,exon5-8のmutationの有無を検索した。結果として以下の知見を得た。(1)75例中62例(83%)で,免疫染色と遺伝子解析の結果は一致した。不一致の13例のうち,8例は免疫染色(+)でmutation(-)であったが,exon5-8以外の領域のmutationあるいはSSCP法の検出感度上のfalse negativeと考えられた。他の5例は免疫染色(-)でmutation(+)であったが,mutationはexon6に集中しており,sequencingの結果,4例でcodon213のnonsense mutationが確認された。(2)腺腫内癌を伴う腺腫34例中,4例では腺腫部分にp53のmutationが検出された。その組織型は,mild dysplasia 1例,moderate dysplasia 3例であった。(3)腺腫部分でp53の異常の認められなかった30例のうち22例(73%)では癌部分でp53の遺伝子異常が確認された。従来から大腸発癌においてp53遺伝子はその後期すなわち,腺腫から早期癌に到る過程および癌の進展の過程に関与すると考えられてきたが,今回の我々の研究結果からp53遺伝子は大腸癌発生のadenoma-carcinoma sequenceにおいて,腺腫から微小癌に至る初期過程に関与していることが明らかとなった。
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