研究概要 |
消化器癌の転移や形態などの特徴を規定する遺伝子を同定するために、腫瘍組織と正常組織で発現差の著しい遺伝子をmessenger RNA (mRNA)レベルで検索した。対象は食道癌・胃癌・大腸癌・肝癌で各々の腫瘍組織のmRNAと正常組織のmRNAをcDNA subtranction library法またはdifferential display法で比較した。その結果プロテアーゼの一種であるmatrix metalloproteinase 7 (MMP7)とインテグリンの一種であるintegrin α6の遺伝子を同定できた。 1)MMP7について MMP7は腫瘍間質や基底膜の主構成成分であるラミニン、ファイブロネクチンや一部のコラーゲン等を基質とする金属プロテアーゼでMMPファミリーの中で最小のものである。われわれはMMP7が大腸癌では病期の進行に有意に相関する事をNorthern blotを用いて明らかにした(Cancer 75:1516-1519, 1995)。また胃癌ではreverse transcriptase polymerase chain reaction (RT-PCR)法を用いた検索で、発現の強い症例は深達度が深く、リンパ管や静脈内浸潤が強いことを明らかにし、悪性度規定因子の一つになる事を示した(Gut, in press)。また食道癌においても同様の傾向を認めた(投稿準備中)事はMMP7が広く消化器癌の浸潤に関わっている事を示すものと考えている。一方本遺伝子を用いたアンチセンス療法の治療応用についても検索を開始した。 2)α6インテグリンについて 肝臓癌と非癌肝組織より抽出したmRNAを用い、differential display法で同定した。臨床材料を用いた検索では、肝癌の組織形態に強く関与していることが示された(Hepatology 22:1447-1455, 1995)。食道癌・胃癌・大腸癌についても同遺伝子発現の意義を検索中である。 以上本年度は特に2つの注目すべき遺伝子の同定とその意義について検索できた。今後更に研究を推進するとともに、治療応用への具体的実現を目指したい。
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