広範な郭清を伴う直腸低位前方切除術にはしばしば排便障害生じ、直腸肛門の機能検査結果が改善した後にも持続することが臨床の場においてしばしば経験される。我々はその要因は腹腔内の神経の障害による残存大腸の運動障害に起因するのではないかと考え雑種成犬を用いて実験的に考察した。我々は食物摂取に対する大腸の反応性の運動亢進、いわゆるgastrocolonic responseを応用した大腸機能の評価方法を考案し、大腸の筋電図においてCERAとCECの出現頻度を比較検討することにより術後の大腸機能に関し検討を行った。仙骨前面の副交感神経系の神経節を傷害すると術後の大腸運動は有意に低下(p<0.05)した。右側結腸のみを対象として検討しても同様の結果を得た(p<0.05)。この機能低下は術後6カ月を経過しても回復しなかった。大動脈前面の神経節あるいは腸間膜の切離のみでは活動電位は減少せず、むしろ空腹期に一過性に増加する傾向を示した(p<0.05)。この傾向は術後2カ月目には対照群と同様のレベルに戻った。排便状態の観察では、仙骨前面の神経節を傷害した群では下痢、排便時間の延長が観察され、術後6カ月経過してもこの傾向が持続するものが半数(2/4)存在したが、他の群では術後3週間目でほぼ術前と同様の排便状態に回復した。 以上の結果より、仙骨前面の副交感神経系の節前線維を傷害すると残存大腸の機能低下を来たし、術後6カ月を経過しても回復しないことが明らかになった。神経系の伝達が回復するとされる術後3〜4カ月を経過しても残存大腸の機能が回復しないことより術後遷延する排便異常の原因として仙骨前面に存在する副交感神経系の節前線維の障害があげられると考えられる。従って、不必要な仙骨前面の操作により骨盤神経叢の損傷をきたすことは術後の排便機能の保護の観点からも慎まなければならないと考えられた。
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