研究概要 |
本年度は膵外分泌系酵素であるDNase-1が、癌細胞凝集塊を遊離し、癌転移を抑制するか、そして膵癌の糖鎖抗原の発現は肝転移巣形成に関係しているかの二点について検討した。 膵外分泌系酵素であるセリン型プロテアーゼが癌細胞を凝集し、DNase-1がその凝集を解離することから、DNase-1の投与は、癌の血行性転移初期相の微小循環系への着床において抑制すると考えられる。そこでラットの肝転移モデルにおいて、腹水肝癌細胞を尾静脈静注直後にDNase-1を静注し、14日目の肺転移結節数を生食投与の対照群と比較すると、DNase-1投与群の転移結節数は有意に減少した。またこの抑制は、RI標識細胞を用いた実験によって、肺循環系での癌細胞着床の減少に基因することが解った。今後さらにDNase-1の臨床応用に向けて検討したい。 膵癌のcarbohydrate antigens(CA19-9,DUPAN-2,Span-1)の発現と血行性転移巣形成との関係を検討した。6種類のヒト膵癌株を用いて、2×10^6個の癌細胞をヌードマウスの脾臓に接種6週後に屠殺し、肝転移巣形成を評価する実験を行った。ヒト膵癌株のSUIT-2,AsPC-1,HPAF,Capan-2の4株においては前期の糖鎖抗原が発現されたが、MIAPaCa-2,BxPC-3においては発現されなかった。糖鎖抗原発現の4株においては、肝転移巣が形成されたが、非発現の2株においては、肝転移巣は形成されなかった。また転移巣の癌細胞においては、糖鎖抗原が原発巣の癌細胞における糖鎖抗原の発現より強く発現された。このことは膵癌細胞の糖鎖抗原の発現と肝転移巣形成の間に強い関係があることを示している。 臨床例において、血清CA19-9値50U/ml以上と未満を境に切除後の肝転移巣形成の有無に有意差が認められ、血清CA19-9値は診断的意義の他に膵癌の予後を左右するprognostic factorとしても有効である。
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