膵外分泌系酵素の血中遊離癌細胞の肝および肺への着床発育に及ぼす影響と膵内分泌環境の膵癌の浸潤能に与える影響、そして膵癌の糖鎖抗原の発現と肝転移巣形成について検討した。 膵外分泌系酵素であるセリンプロテアーゼが癌細胞を凝集し、DNase-Iがその凝集を解離することから、DNase-I投与は、血中遊離癌細胞の凝集を抑制し、その肝への着床を防止すると考えられる。そこでnude mouseに、肝転移巣を形成についてはL5178Y-ML腫瘍株を、肺については、AH-109A細胞を用いての、肝および肺での転移巣形成はDNase-I投与群で、対照群に比して有意に少なく、これは肺転移巣実験での蛍光標識細胞、RI標識細胞から微小血管系での着床の減少に起因することが解った。 膵外分泌系は高インスリン環境下により、この環境の膵癌の浸潤能に及ぼす影響を、ヒト膵癌株AsPC-1をnude mouseに移植する実験、またin vitroでの癌細胞浸潤実験および形態学的極性変化でみたところ、インスリンによる浸潤増強を認めた。これはグルコースの存在下で認められ、またインスリン調節性グルコース輸送体の発現を認め、さらにインスリン存在下で、細胞内へのグルコース取り込み、及び解糖系促進因子であるフルクトース2.6ビスリン酸の細胞内濃度の有意な増加を認めたことから、膵の高インスリン環境下は癌細胞に対し、グルコース代謝を亢進させ、高浸潤能を与える一つの要因と考えられた。 膵癌細胞の糖鎖抗原の発現と血行性転移巣形成の関係を、6種類のヒト膵癌株を用いてnude mouseの脾に移植してみたところ、糖鎖抗原を発現した4株においては肝転移巣が形成され、非発現の2株では転移巣は形成されなかった。 今後さらにDNase-Iの血行性転移巣形成抑制に関し、臨床応用出来るように検討していきたい。
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