平成5年度にはc-myc遺伝子のアンチセンスDNAを直接抗体で修飾することで、選択的遺伝子治療を試みたが効率が極めて不良であったため、今年度はc-myc遺伝子のアンチセンスDNAをneo遺伝子とともに、抗体でコートしたレトロウイルスをベクターとして導入した。G418で選択した後、大腸癌におけるc-mycの選択的発現抑制を蛋白レベルで免疫組織化学的に検討した。抗体とウイルスの結合はSPDPあるいはAvidin-Biotinの系を用いた。培養大腸癌細胞に添加してc-mycの発現が阻止されるか検討したが、その効率は極めて低く、実用化には更に検討を要するものと考えられた。抗体認識抗原をもたない腎癌の培養系では、c-mycの発現は完全には抑制できなかった。 また、抗体の分子サイズによる違いを検討したところ、wholeの抗体あるいはF(ab)'_2では特に差は認められなかったが、Fab fragmentを利用した場合、大腸癌細胞におけるc-myc遺伝子の発現抑制作用は弱かった。このように抗体のサイズで差が認められた原因は、主に抗体としてのaffinityの差によるものと考えられた。 以上の様にウイルスに導入したc-myc遺伝子アンチセンスDNAの、c-myc遺伝子発現抑制作用は期待したより効率が悪く、このままの状態では実用化できないことが明らかになった。しかし、効率は悪いとはいえ抗体をキャリアーとした選択的遺伝子導入が可能なことが示されたので、今後はウイルスベクターの改良に重点をおいて研究を進めるべきと考えられた。
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